自己欺瞞とは何か?
例えば、ある時、あなたは職場で困っている同僚を見かけました。そこでサポートすべきだと感じたとします。
あなたは同僚に対して何をしてあげたら良いか、どうするべきかを分かっていました。でも、それをしませんでした。つまり、最初に感じていた気持ちや考えに従わず、サポートしなかったのです。
するとどうでしょう。今度は先ほどまでの状況と打って変わり、全く違った感情や思考が生まれ始めます。
「だって、あの人だって私を助けてくれたことがない・・・」
「そもそも、あいつは他人に頼り過ぎだ・・・」
「私だって忙しいのだから・・・」
こんな風に感じたり、考え出したりします。
でも、おかしいとは思いませんか?
なぜなら、最初にサポートすべきだと感じた相手が、今は非難の的になっているのです。
この様に、自分が最初に感じた気持ちや考えに従わない選択をすると、最初に見えていたはずの世界と違った世界が見え始めるのです。
しかし、それは、「偽りの世界」です。そして、その世界を正当化するために、サポートしなくても良かったのだと自分で自分を信じ込ませようとするのです。だから、自分の正しさを証明してくれる証拠を探し始めることになります。「自分は正しい!」と。
そう思った瞬間、真実は深い闇へと消え失せます。問題がどこにあるのかが見えなくなるのです。これが「自己欺瞞」です。
つまり、「自己欺瞞」とは、自分に問題があることに気づいていない状態のことを指していいます。
欺瞞とは、だます、あざむく、という意味です。すなわち「自己欺瞞」とは、自分を騙している状態です。自分の良心や本心に反しているのを心のどこか知りながらも、それを正当化している状態です。
しかし、偽った世界ばかりを見ている嘘つきが、たとえばあなたの会社に大勢いたらどうなるのでしょうか?仲間を支えることなく、思いやりもチームワークもない、単なる人の集まりが出来上がりますね。それはもはやチームとは呼べません。
「自分の主張は正しい!」
「こんなに忙しく働かなくてはならないのは、他の人たちの能力が低く、しかも怠けているからだ!」
自己欺瞞の状態にある人が見ている世界の中では周囲の人がまるで敵のごとく見え始めます。そして、その敵がさらに悪く見られるような証拠を集め始めるというわけです。自分が正しさを証明するためには、事実を捻じ曲げてでも他人を悪者にする必要があるからです
ですが、このような見方をしていたら、他人の良いところなど目に付くはずがありません。他人の粗を探し、愚痴や不満を言い合うばかり。足を引っ張り合い、そして、罵り合う。
こうして、生産性が低くコストばかりが積み増しされる、恐ろしく成果の出ない組織が出来上がるのです。
問題の中の問題
前述したように、「自己欺瞞」とは、自分の問題に気づいていない状態のことを指していいます。つまり、それ自体が、我々の幸福度を押し下げる、人間関係における大きな「問題」であり、日々の生活に与える影響は計り知れないものがあります。
それは、人間関係におけるすべての「問題」の根本原因と言っても過言ではなく、これが解決すれば、私たちの幸福度は大きく改善されることになるでしょう。
つまり、「問題」を生み出す「問題」。
いわば、「問題」の中の「問題」。
キングオブ「問題」と言ったところです。
「自己欺瞞」によって生み出される苦難や、障害を乗り越えることは、大変骨の折れることでありますが、だからこそ、我々に与えられた大きな試練や課題であるともいえます。この「自己欺瞞」を解決しようと、過去に多くの哲人や賢人たちが真理を探究し、道を開こうと努力を重ねてきました。
しかし、長い人類の歴史の中で、戦争やテロから夫婦喧嘩や子供の喧嘩に至るまで、我々が、世界中で未だに多くの問題を引き起こし続けているということは、問題改善を邪魔する、よほど高く大きな壁があるということです。それは、人類にとって最大の課題ではないかと思えるほどです。
対立や争いの影には、いつもこの「自己欺瞞」が影を潜めています。
自己正当化のメカニズム
ここで、私と妻とのあるやりとりをご紹介したいと思います。
私は、仕事に出かける前に、返却期限ギリギリのレンタルDVDの存在に気づいたのでした。
私:「あっ しまった! ねえ、ちょっと! DVD返却に行ける?」
妻:「えーっ! 私今日出かけるしぃ~」
私:「すぐに出かけるの?」
妻:「別にそうじゃないけど、色々と忙しいの!」
私:「はぁ? わかった、もういいわ!」
妻:「え? なんでちょっとキレ気味? 私が悪いの!?」
私:「・・・ 」
いいえ、明らかに私が悪いのです。そもそも、自分が、DVDの存在を忘れていなければ、こんなやり取りも生まれませんでした。それに、急に言われても、そりゃ、彼女だって予定や都合があるでしょう。
が、そのときの私は自分が悪いとは思っていません。じゃ、どう思ったのでしょうか?私の心の内はこうです。
「そんなに優しくない言い方しなくてもいいじゃないか!」
「時間がなくて困ってるんだし、近いところなんだから、ちょっと早く支度して返しに行ってくれてもいいじゃないか!」
「大体、いつも支度が遅いんだよ!」
「ほんと、困ったときに手助けしてくれないなんて、なんて嫌な奴だ!」
「もう、俺もおまえが困ったときに助けてやらんからな!」
「あー、イライライラ・・・」
と、まー、こんな感じなのです。
私こそ、何とまー、意地の悪い嫌な奴でしょうか。自分の解釈だけで物事を都合よく見て、勝手に被害者になっています。そして、自分の落ち度を棚にあげておいて、相手を責めているわけです。
「おれも悪いかもしれんけど、おまえだってさー」と。
私は私の見たい世界から彼女を見ていました。後になって客観的に考えれば、圧倒的に自分が悪いことはわかるのですが、その時は情けないことにわからないのです。
さて、あなたはどう思いました?
こんなやり取りが、私達夫婦に限らず、世界中のあちこちで毎日、いや毎分、どこかで起こっています。もちろん、あなたの周囲、いや、あなた自身のやり取りにおいてもおそらく。
本当に小さなほころびから戦争にまで発展することだってあります。人は、物事が自分の思い通りにならなければ、他人をコントロールしたいと思うものです。しかし、他人は簡単に自分の主義主張を受け入れてくれるとは限りません。相手に理解してもらい、賛同してもらうためには、いかに自分が正しいかを証明しなくてはいけません。
そこで、自己正当化が始まるわけです。自分の正しさを証明するための証拠探しや犯人探しが始まるのです。そして、他者を非難し、貶めることで、自分の正当性を証明しようとします。
たとえば、特に外国の選挙で行われる選挙戦術で、ネガティブキャンペーンという手法がありますが、あれこそまさにと言ったところでしょう。政治の世界は、わかりやすく欺瞞に満ち溢れています。
小さな子供の喧嘩は、自分の思い通りにならないと、すぐに手が出たりします。こういうのは、大人の世界ではテロリズムと呼ばれたりするわけです。
また、子供は、いかに喧嘩の相手が悪いのかを大げさに大人や親に言いつけたり、アピールし始めます。これは、まるで、戦争が始まるプロセスそのものです。つまり、大人も子供も問題が起こる原理は、どちらも本質的には何ら変わりはありません。
~私が正しい~
この呪縛から解放されることこそが、世界平和への第一歩だと思うのであります。
「自己欺瞞」を避けられない2つの理由
「自己欺瞞」は、「自欺」とも言い、読んで字のごとく、自分を欺くことを意味します。つまり、自分に嘘をつく、もしくは、嘘をついている状態にあるということになりますが、そこであなたにひとつ質問があります。
あなたは、意図的、意識的に自分自身のことを騙すことができるでしょうか?
少しイメージしてみてください。
たとえば、苦手な食べ物を好きだと思い込ませておいしくいただくことができるようになるとか、結婚式のスピーチを頼まれたものの、元々あがり症で緊張する自分が、本番で堂々と、しかも、とちりもせずに余裕でこなすことができるようになるとか。
無理じゃないですか?少なくとも、簡単なことではないはずです。自己暗示や自己催眠を使いこなせるようなツワモノは別としても、凡人には普通は無理。つまり、ほとんどの人は、意識的に、且つ即座に、自分のことをコントロールできないのが現実でしょう。
ところが、「自己欺瞞」は、私たちの生活の中に蔓延しています。つまり、私たちは、誰も彼も、自分に嘘をつき続けているわけです。
これは、一体どういうことなのでしょうか?
あなたは自分自身に嘘をついている自覚がありますか?
もうお気づきだと思いますが、意識的に騙すことができないとすると、無意識で行われていることになりますね。
そうなのです。「自己欺瞞」は私たちが日常的に、無意識のうちに行っていることです。無意識に行われていることなので、私たちは、自分自身に「問題」があることに気づけないのです。そして、そのことが、事態を余計に根深く、一層やっかいな「問題」へと進展させ、目の前にいる人たちとの人間関係を益々悪化させていくことになります。
周囲の人たちとの人間関係における「問題」を引き起こしている張本人が、自分自身であるという事実すら知らぬままに、必死に犯人探しを始めるのです。「私に責任はありません。だってあなたが悪いのだから」と。
お互いが醜く、罪や責任の擦り付け合いをしながら。「自己欺瞞」が、我々人類を苦しめ続け、中々解決できない問題であり続ける理由は、自分に「問題」があることに気づけないからです。これが、私たちが容易には「自己欺瞞」状態を避けられないひとつ目の理由です。
~知らぬが仏~
有名なことわざですね。
知らなければ、仏様のように心穏やかでいられるかどうかはわかりませんが、感情を振り回されるようなことはないでしょう。誰だって、心穏やかでいられるものなら、なるべくそうありたいと願うものです。ストレスを感じることなく、穏やかな環境に身を置きたいと思うのは人間の根源的な欲求だと思います。
知らなくても済むことならば、知らずにいたいと思うのが人の心情です。しかしながら、それを逆手に取って、知らないのを良いことに責任逃れをする無責任な人がいます。これこそは、まさに「自己欺瞞」に陥っている人の代表格です。
たとえ自分に非があろうとも、中々その事実を受け入れたくはないものです。元より、知らなければ余計なことに心乱されることもありません。ですから、自分の罪をついつい他人の責任にして押し付けてしまったりするわけです。
つまり、「自己欺瞞」の状態にあることは、責任を放棄することや無責任さを正当化し、自分を守るための術でもあるわけです。
「自己欺瞞」を避けられない理由
- 自分に「問題」があることに気づけないから
- 責任を放棄することや無責任さを正当化してくれるから
これら2つの理由から自己欺瞞は世の中に蔓延し続けるというわけです。
「自己欺瞞」から抜け出す方法
ところで、あなたは「本当に」幸せになりたいと思っていますか?
あえて聞くまでもないことかと思います。誰だって幸せになりたいと思うのは当然のことでしょう。
ところが、どうやら世の中には、自分は幸せになりたいとは思うが、どうせ幸せにはなれない、成功できないと思っている人たちが多いようです。そして、そのような人たちは、同時に心のどこかでこうも思っています。
「幸せになりたいのは山々だけど、自分には所詮無理なこと」
「周囲の人たちは成功しているけど、自分は不幸で不自由な被害者」
「だって、チャンスや環境にも恵まれず、道を切り開く能力すら神から与えられなかった弱い存在なのだから」と。
しかし、このような考え方や態度は、自分では気づかないうちに、幸せになることを自ら放棄し、進んで不幸への道を歩んでいることに等しいのです。心のどこかでは良くないことだと思っているものの、今までと違った行動を取ることや、違った考え方を受け入れるなど、一歩を踏み出す勇気も覚悟もありません。
なので、「自分は行動しなくても良かったのだ・・・」、「できなくても仕方なかったのだ・・・」という言い訳をしては、自分を騙して慰め、そこに留まろうとするのです。そして、そこに留まった結果は、ご想像のとおりです。
これが、「自己欺瞞」の副作用です。一時的に身を守ってくれるものの、その裏側で問題は増え続けるのです。まるで違法ドラッグのようですね。
「どうせ私は幸せになれない・・・」
無意識的に心のどこかでそんな風に思っていれば、それを証明するために、私たちの優秀な脳は活動を始めます。正しさを証明するために、自動センサーで証拠探しが始まるのです。自らすすんで不安や苦悩の世界を選択していることと知らずに。
「自己欺瞞」の状態から中々抜け出せない理由は、自分がその状態にあることに気づいていないからです。つまり、「自己欺瞞」という「問題」から脱出するための方法は、まずは、自分の「問題」に気づくこと、自分自身を知ることです。
また、「自己欺瞞」は、責任を放棄することや無責任であることを正当化してくれます。他人のせいにできるのです。しかし、無責任さに拍車がかかれば、問題の増加も加速します。
そうならないようにするためにはどうすればいいのか?
言い訳せずに自分の責任を放棄しないことです。そして、自分を見つめる勇気をもたねばなりません。
人は、自分の言動に対して、真の意味で責任を取るという大きな壁を乗り越えることができるようになると、自分の内側にも外側にも大きな変化が起こり始めます。自分に対して責任を取れない間は、「自己欺瞞」の状態から脱出することはできません。
ここで間違えてはいけないことは、いわゆる「自責」であることとは、決して、自己犠牲をはらったり、自己否定をして自分を責めることではないということです。シンプルに言うならば、自分の人生は自分が決めているという自覚を持つということが「自責」であるということです。
自分の人生は自分が選択した結果なのだという自覚を持つことができると目の前の世界が大きく変わり、道が開けます。つまり、自分は元来自分の人生を決められる自由な存在であり、他人に自分の人生をコントロールされて、多くを決められている不自由な存在ではないということに気が付くことができるのです。
自分自身に起こっていることや自分の周囲の環境で何かを変えたいと思ったとき、自分に変えていく力があることを知っていれば、行動が生まれます。
「自己欺瞞」からの脱出方法
- 自分の問題に気づく
- 責任を放棄しない
「自己欺瞞」という問題を解決し、そこから抜け出すと、真の幸せや成功がやって来ることになるでしょう。
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