「ワンマン社長」は「裸の王様」?
「裸の王様」という童話をご存じでしょうか?
アンデルセンが1837年に発表した童話で、ある国の王様が仕立屋を装った詐欺師にだまされ、下着姿で町を練り歩くというお話です。
王様の格好は、半ば裸同然なのですが、本人は洋服を着ていると思い込んでいます。 しかし、家来たちは、その事実を王様に言うことができず、逆に着てもいない洋服を褒めちぎるという、傍から見れば、あまりにも滑稽なやりとりが展開されて行きます。
会社でもこれと同じようなことがしばしば起こってしまいます。
「裸の王様」とは、言い換えるならば、まさに、【「ワンマン社長」を自覚していない経営者】と言い換えることができるでしょう。いわば、「裸の社長」です。
特に、オーナー系の中小企業では、社長の考え方、態度、行動がそっくりそのまま影響し、会社の姿を形作っていることが多いのが現実だと思います。そのような環境下では、社長は裸の王様状態に知らぬ間に陥ってしまいます。社長として持っている既得権益を濫用することで、捻じ曲がった権利構造が組織内に出来上がって行きます。
普通は、社長に嫌われたら、その会社に留まることは難しいかと思いますし、気持ちよく働くことが困難になります。ですから、わざわざ社長に嫌われたいと思っている社員はいないでしょうし、なんだかんだ言っても社長に認められたいと思っているのが本質的なところでしょう。
世の中の多くの社長は、社員に対して、 「自立してもらいたい」 「自ら考えて、自発的な行動をとってもらいたい」 というように考えています。
しかしながら、ワンマン社長の元では、自分が望む結果と違う現実が目の前に展開されることになります。裸の王様がいる会社には、「自律」も「自立」もありません。
自分がワンマン社長であることに気付いていない社長は、そもそも、自分の立ち居振る舞いを振り返って行動を改めていません。つまり、裸の王様状態にあるかもしれない自分自身の姿を、客観的に見ることができていないということです。
結果、うまくいかないのは、社員が無能だからと考えてしまうわけです。 一見成功している社長は、特にそうなる可能性が高くなります。 つまり、自分が正しい、自分こそが真実という驕りが問題を誘発させることになるのです。
「ワンマン社長」にみられる3つの特徴とは?
特徴 その1.自分は「優秀である」と思い込んでいる
社長さんは、客観的に見ても、実際に「優秀」な人が多いかと思います。
独立したい、自分の力を試してみたいという欲求もさることながら、ある分野で優秀な成績を収めていたり、自信があるからこそ社長をしている人が多いというのが現実でしょう。
実際に優秀であることに何ら問題はありません。むしろ優秀である方が良いでしょう。
しかし、自分は優秀であるという思いが強くなると問題は増加してしまいます。
自分は「優秀」で、社員は「無能」。このような考えが社長の頭の中を占めてしまうと、加速度的にワンマン経営は進行してしまうことになります。
社員に任せるよりも自分がやった方が早い。
だから、自分で何でも決めてしまうし、行動してしまう。
自分の仕事のプロセスに関わらせないので、もちろん報告もありません。
そんなことをする必要性すら感じていません。
しかし、その状態が続くと、社員にとっては、社長の仕事が見えなくなり、サポートしたくてもできなくなってしまうようになります。ところが、社長自身は、何も考えていない、行動できない社員、つまり、無能な社員なのだという思いがさらに強くなり、益々悪循環はひどくなります。
自信があることが裏目に出てしまうと、プライドが高く、傲慢になります。
独断や偏見が強くなり、他人の意見を受け入れないために、頑固さに磨きがかかっていきます。
また、プライドが高いために、他人に弱みを見せることができません。
つまり、困っていることを言い出せず、仕事を分配することや、頼みごとをすることが下手になって行きます。ということは、いつまで経っても自分の仕事は減らず、実務者としてずっと作業を持ち続けなくてはなりません。時間的な余裕はなくなり、視野も狭くなるため社員が困っていることにも目が届かなくなります。こうしたほころびが離職率につながっていくケースも多々あるわけです。
特徴 その2.社員に感謝しない(できない)
自分自身が優秀で、できて「当たり前」だと思っている人は、できない人の気持ちがわかりません。
「このぐらいわかるだろ?」
むしろ、「なぜ、わからないのかがわからない。」
そのように考え、できない人の気持ちが理解できません。
ですから、そのように思っているので、サポートすることが下手になっていきます。
困っている人に手を差し伸べることが難しくなっていくわけです。
近寄りがたい雰囲気が漂い、自分の周囲から人が消えて行きます。
このような側面からも、逆に社長自身がサポートされることが減って行きます。
「感謝」が足りない会社は、「当たり前」が増えて行きます。
反対に、「ありがとう」や「ごめんなさい」が減って行きます。
してもらって当たり前。
しっかり働いて当たり前。
社員が働くのは当然の結果。
さらには、「働かせてやってるんだ!」などと本気で思っているとしたら相当重症です。
感謝されない、承認されない、褒められない。
そのような会社の社員は、モチベーションが下がります。
つまり、生産性は落ち、成果は下がります。
自分が成果を出すだけでは、当然ながら、会社は成り立ちません。
先人たちや今共に働いてくれる仲間がいて初めて成り立ちます。
コントロール癖が強い社長さんは、元々社長が持っている「既得権」の行使が激しい人です。
つまり、社長が持っている権利を当たり前だと思っている人です。既得権とは、たとえば、情報掌握権であったり、人事権であったり、財務をコントロールする権利であったりします。
結果、ダメ社員や無能社員であるという烙印を押した社員に対しては、簡単に首切りを行ったり、左遷したり、降格、減俸などを行います。
鶴の一声や恐怖で社員をコントロールしていくのです。そして、気づくと社内には、何もしない、言わない社員(イエスマン)だけが残ることになります。
「権利」や「権力」に群がる社員で構成された会社。 それを許すということは、社長自らが既得権益を享受しているという証拠です。
「詣でる」 「参る」というイエスマンが社長の周りに群がります。
このようなイエスマンこそが「裸の王様」を生み出す最大の要因です。
社長の鶴の一声を待ち、直属の上司の話など、どうでも良いと思ってしまうような、おかしな風習や文化が社内に出来上がり、組織としての指示命令系統は崩壊し、管理職が機能しなくなります。つまり、組織としての体が保てず、チームとしての総合力が発揮できないただの人の寄せ集まりと化すのです。
特徴 その3.仕事を任せない(任せられない)
仕事を割り振ることができず、何でもやってしまう社長はいつも忙しく、イライラピリピリしているように見えることが多いでしょう。自分で何でもやらねばならないのかと被害者意識で仕事をしていることもあるかと思います。いつも自分が忙しくなってしまう社長は、視野が狭くなります。
自分で仕事を抱えて溺れるという現象です。
自分自身に余裕がないということは、自分の仕事をコントロールできていないということです。 自分の仕事をコントロールできない人は、当然ながら他人の仕事もコントロールできない。 つまり、組織のマネジメントもままならないということです。 さらに言えば、社員数をコントロールすることもできなくなります。 ということは、働き手が増えないということなので、仕事の量は必然的に増やすことができませんから、事業規模の拡大は見込めないということにもなります。
任せない、任せられないという社長に足りないのは、社員を「信用する」という心の持ち方です。 ですから、組織のパフォーマンスを効果的に上げたいと思うのならば、社員の能力や可能性を信じる心が必要です。社員に、仕事を通じて健全なチャレンジをさせないということは、成長の機会を奪うということです。そのようなリーダーの姿勢は、健全で健康的な組織体質を駆逐します。
つまり、会社の健全な成長は見込めません。
「社員の成長」こそが、会社を成長させていきます。 利益を生み出すビジネスモデルを構築することももちろん重要なことですが、そのモデルを構築し、そして回していくのは、「人」であるということを、そもそも自覚しておかねばなりません。
人の成長を促すのは、「待つ」という姿勢です。
根気が要りますが、リーダーに求められることは、フォロワーの成長を「待つ」という姿勢なのです。
真実は「気づき」の中にある
「産褥熱」という出産によって生じた、産道や子宮腔内の創傷が細菌に感染して引き起こされる病気があります。

イグナス・P.ゼンメルバイス
※Wikipediaより
1800年代中期に活躍したハンガリーの産科医イグナス・P.ゼンメルバイスは、臨床観察から産褥熱が接触感染で起こることを推定し、医師や助産師に塩素水で手指消毒を行なわせることに よって発病率 (死亡率) を 10分の1に減らすことに成功しました。
病原菌や細菌の概念のないこの時代に、彼の主張は当時の学会では受け入れられませんでしたが、現在では、消毒法及び院内感染予防の先駆者とされ、「院内感染予防の父」「母親たちの救い主」などと呼ばれています。
始めに、ゼンメルバイスは、自宅分娩や同じ病棟で助産婦が行う分娩と医師が行う分娩では、産褥熱の発生率が10倍も違うことに疑問を持ち研究を始めました。この原因を明らかにしようと分娩後に死亡した遺体の解剖を行っていたのです。
1847年、友人の法医学者ヤコブ・コレチカが産褥熱により死亡した検体解剖を、学生らに指導していた際に誤ってメスで指を切ってしまいました。そして、そのまま解剖を行った後日、彼は産褥熱と似た症状で死亡してしまったのです。この経緯から、彼は目に見えず「臭い」でしか確認できない死体の破片が、医師の手に付着していることが死因であると結論付けました。
彼は自説に基づいて、脱臭作用のある塩素水で手を洗うことによって死体の臭いを取り除き、その結果として産褥熱による死亡者を激減させました。真実は思わぬところにあったのです。
つまり、皮肉なことに、病気を広めていたのは、病気を治すはずの医者自身だったということになります。すべては、誰も知らなかったたったひとつの細菌が引き起こしていたことだったのです。問題の原因は細菌だったわけですが、奇しくも医者は、そんな細菌があることすら知らずに菌を自ら運んでいたわけです。
会社組織で起こっていることも、これとよく似ています。 社長であるあなた自身が必死に手当てをしようと思っていても、この医者と同じことをしていたらどうでしょうか?
まとめ
コミュニケーションの不足、参加意思の欠如、チームワークの悪さ、信頼関係の不足、誹謗中傷、責任感の欠如、ストレス、協力関係のごたごた、わざわざ問題を引き起こす社員など、組織を蝕む病の原因がもしかしたら・・・
「ワンマン社長」は、この話に出てくる医者や「裸の王様」のようなものです。 つまり、自分に問題があることを認識していません。
「ワンマン社長」の特徴は3つです。
- 自分は「優秀である」と思い込んでいる
- 社員に感謝しない(できない)
- 仕事を任せない(任せられない)
もしも、あなたの中にも思い当たる節があるのならば、まずは、気づくこと。 そこから始めたいところです。
【告知】「朝礼見学会&無料セミナー」開催をします!
・「がんばらない朝礼」を、一度参加見学してみたいという方
・組織構築と改善のポイントやリーダーシップ論について知りたい方
はお気軽にご参加ください。
私、伊藤や弊社社員に、実際の効果や疑問点など、どんなことでも質問してください!
詳細はこちらからどうぞ
「朝礼見学会&無料セミナー」